医療コラム
実践法律基礎講座 【 “患者クレーム”に強くなる! 】
「鞭打ち症状の長引く患者」初診時の面接 No.54
2010年01月28日
◆都心のビルで開業する院長Dは、院内で転んだ患者から通勤タクシー代として60万円を騙し取られ、取り戻しの交渉に当たった長女の皮膚科医は、見事に決定的証拠を掴んで帰ってきた。しかし、相手が無資力のときは、裁判に勝っても何も取れないことを、弁護士から聞かされた。
◆「やっぱり」 長女は肩を落とした。
「で、大先生は、何とお考えですか?」
「たとえお金が戻らなくても、私たち二人の授業料にする、というように・・」
「さすが、お父さんですね」
「裁判をしないとなると、これで終りでしょうか。何だか尻切れトンボみたいな・・」
◆「本件は、これで80%は終わりになるでしょう。弁護士と相談して、告訴まで用意していることを伝えているのですから」
「では、残りの20%はどういうことになるのですか?」
「性懲りもない場合です。60万円を返さないばかりか、また入院費なども要求してくる場合です。『どうせ告訴なんかしないだろう』なんて、高をくくって・・」
「では、どうしたら・・?」
◆「しっかりした示談書を作り、それに署名押印してもらうことです。示談交渉の最終仕上げのスキルということです」
「すると、どうなるのですか?」
「損害賠償として民事裁判を起こしても、裁判所で門前払です。つまり、却下です。また、あなた方に纏わりついて直接に請求しようものなら、今度こそ本当に告訴になります。今までの60万円の詐欺罪の他に、今回の脅迫罪ないし恐喝罪も問題になります」
◆「では先生、そのしっかりとした示談書のモデルを示していただけますか。それに従って、私なりに示談書を作ることができると思います」
「若先生も、見違えるほど立派になられましたね。では、示談書のモデルを作ってあげましょう。しばらく待っていて下さい」 言い残して弁護士は応接室を出て行った。
◆30分ほどで戻った弁護士から渡された1枚の書面を、長女は熟読した。
「先生、タイトルは『確認書』とありますが、示談書とどう違うのですか?」
「同じです。示談書も和解書も、念書も確認書も、みな『契約書』として同じ法律効果を発揮します」
◆「事件のことですが、『平成□□年□月□日に乙の診療書内で発生した事故』とありますが、こんな抽象的でよろしいのでしょうか。曖昧なような、あっ、失礼・・」
「いいのです、事件は特定できればね。あまり生々しく書かないほうが、署名するときにも心理的な抵抗が少ないですから」
◆「確認条項のところですが、『甲および乙は、互いに本日の現状を確認の上、以後両者間に一切の権利義務のないことを確認しました』とありますが、こんなに簡単でいいのですか」
「本件は、互いにお金の遣り取りがないので、これでよろしいでしょう。敢えてタクシー代とか授業料とか、損害賠償などと言う必要はありません」
◆「先生、有難うございました。私、きっと彼から署名押印を取れると思います」
「これからの時代のドクターには必須なスキルと言えそうですね。頑張って下さい」
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